ソーシャルイシューに取り組む事業家と現役ママPRの目線が交差するとき——Kazamidori久保氏×MaVie志賀

「子どもを産んでいないのに、わからないでしょ」。200人のママにインタビューを続けている中で言われた。その苦い経験を話してくれたのは、国産有機野菜でつくった離乳食ブランド『土と根』を展開する株式会社Kazamidoriの代表、久保直生氏だ。1995年生まれの若手起業家、そして男性である。子育ては未経験。だが、事業のテーマは「離乳食」。地道にユーザーヒアリングを続け、ほんとうに求められているものを探り商品をつくる日々の中で、「当事者目線」を渇望していた。そのとき、出産を終え「子どもと食」に関する仕事ができないかと考えていたMaVie (マヴィ) 志賀と絶妙なタイミングで出会う。久保氏の解決したい社会課題と実現したい世界観に深く共感した志賀は、現役ママという「当事者目線」で『土と根』の立ち上げとブランディングを支援した。ソーシャルイシューに取り組む事業家のビジョンとPR専門家の目線が交差したとき、何が起こったか。話を聞いた。

久保直生(くぼなお):株式会社Kazamidori代表。 東京都出身。2019年3月に青山学院大学国際政治経済学部を卒業。2016年9月から大学を休学し、ボストンでアメリカの大統領選挙の調査を行う。留学中にトランプ政権誕生を間近で見たことで「生まれた環境にかかわらず、自分の努力によって自分の夢を追いかけられる社会をつくりたい」と乳幼児期の”子育ち”環境をテーマに起業。国産有機野菜をつかった離乳食ブランド『土と根』を2019年にリリース。

志賀祥子(しがしょうこ): 株式会社MaVie(マヴィ)代表。2009年に大手住宅メーカーにて社長秘書と広報を兼任し、PRキャリアをスタート。その後、上場企業からベンチャーまで複数社で広報室立ち上げや再構築、ブランディングに従事する。2015年に広報コンサルタントとして独立、2019年に起業。1児の母である自身の経験・目線を生かした広報支援、商品・サービス監修を得意とする。

――久保さんは、アメリカ留学中に「トランプ政権の誕生」を間近で見たことが起業のきっかけになったと聞いています。そこで、何を感じたのでしょうか。

以前から今の政治は弱者を救うような仕組みは作れるけれども、そもそもどうして弱者は生まれるのか、そこ自体は手つかずというか「運命」として済ませてしまっているなという気持ちがありました。アメリカで選挙を研究したとき、トランプ支持者に対して不思議な感覚を抱いたんです。彼らは、クリントンを支持するようなアメリカの1%といわれる”エリート層”よりも全然政治にコミットしているんですね。自分の生まれや育ちに何かしら不条理さを感じているから「明日の僕らの生活を変えるために、選挙に行かなければいけない」、そういう動機で政治参加をしている。それ自体は素晴らしいことなのですが、それではどんどん階層間の断絶を生んでしまう気がして、これでいいのだろうかと。そこで、幼少期や生まれた環境にかかわらず、努力によって自分の夢が追いかけられる社会をつくりたいということをテーマに定めることにしました。

幼少期、特に自分の意思を持たない乳幼児の時期に大事だと思っているのが「自己肯定感」と「知的好奇心」だと考えています。それが生きていくうえでのエンジンになると思っていて、それは未就学児の6歳までに70%完成するとも言われています。その2つの要素は、何によって醸成されて、何によって阻害されるのか。それを調べていく中で、知的好奇心も自己肯定感も親がフタをしてしまうことで伸びなくなってしまうことが分かってきました。その”フタ”って何なのかというと、親御さんの時間がなくて、子どもが好奇心でやったことを怒ってしまうなど「余裕のなさ」からきている。じゃあ、まずは親御さんの可処分時間・可処分精神量を増やすべきだろうと「何が一番親にとって負担なのか」を調べ始めました。

――それが「離乳食」だったというわけですね。

そうです。もちろん「働き方」などの切り口もあると思うのですが、食の分野はわかりやすく課題があると思いました。7割の親御さんがまだ離乳食を手作りしているというデータもあります。時代とともに、粗悪品と言われていた冷凍食品も品質が良くなっているなど食の技術は進化しています。離乳食も安心・安全な良いものがたくさん出ているはずなのに、「7割もの人がまだ手作りしているんだ」と純粋に驚きを感じました。もっと親御さんが手を抜くことに対して、ポジティブな選択肢が用意できたらというのが僕らの考えです。親側の可処分時間を作ること。それが、僕らは”子育て”ではなく”子育ち環境”と呼んでいますが…子どもが育っていく中で重要な要素だと思っています。

「手作りをしなければいけない」という思い込みが根強い離乳食。ここから変えたい、と久保さんは言う

――MaVieは、ブランド理念や世界観が大枠として固まってきたころにプロジェクトに入らせてもらいました。私たちが入ったことで何が変わりましたか。

志賀さんがブランディングやPRに関して支援をしてくださることが決まったころ、大きな絵は描けていて、その次の「温度感や雰囲気」を言葉に落とし込んでいるフェーズでした。その言語化の部分において、僕たちが子育ての「当事者ではない」ということが大きな壁になっていて。なので、まずは複数あるデザインの中で志賀さん自身がしっくりくるのはどれか、どういった印象を持つかという感覚的なコミュニケーションを重ねていきました。もともとスタイリッシュに作りすぎていたロゴやパッケージデザインを「あたたかみ」を感じさせるデザインに方向転換をしたり。それも志賀さんがブランド作りにおいてチープにしてはいけないけど、「手が届かない」感じにするのもダメだよね、などの助言をくれる中で変化していきました。僕たちがターゲットしている層は、固定概念をもたない新世代のママということで志賀さんは非常に属性が近い。まずは1ユーザーとしてどう感じるかを伺いつつ、PRに関しては専門家として俯瞰から見ていただきました。僕たちだけでやっていたら、右往左往して大量に本発注してみてからパッケージ変えるとか、試行錯誤を続けすぎてもっと時間がかかっていたかもしれません。ユーザー層と同じ属性を持つ「ママ」であり、同時にPRのパートナーとしてアドバイスをくださる専門家がいてスピード感が生まれたと感じています。

「当事者」ではないからこそ、専門家や多くのユーザーの意見を聞いた。そして完成したパッケージ

――この商品を作るにあたって、200人ものお母さんにお会いしたそうですね。たくさんの生の声から、何を感じましたか。

そうですね…たくさんの親御さんにお会いする中で一番感じたのは、「子育てのナレッジがシェアされていなくて、皆さんもがき苦しみながら自分なりの方法を編み出しているんだな」ということ。離乳食ってつくるのも大変ですが、食材選びや月齢に応じて食べさせ方もステップアップしなくてはいけなくてケアしなければいけないことがたくさんあるんですよね。まずは、食材選びのところから僕らの商品でストレス軽減をしてほしい。そういう思いがあります。あとは、とにかくキーワードだなと思ったのは「罪悪感」。それから「ほんとうは、楽をしたい」という本音ですね。親御さんが楽が出来ることと、子どものためになること。それが両立することは可能なのか。僕らは、そこにフォーカスしたいなと思いました。この『土と根』をきちんとしたブランドとして確立して、「むしろ手作りよりも、これを買った方が子どものためになる」くらいの存在にしたいです。僕らの離乳食には砂糖や食塩を含めた添加物がまったく入っていないんですよ。野菜をそのままあげている状態なんですけど、本来の甘さで子どももパクパク食べてくれるという声もあります。その「野菜の味に徹底的にこだわる」、それが僕らのコアバリューになるのではないかなと考えています。

――ユーザーインタビューの中で「子どもを産んだことがない若い男性に、なにがわかるの」というような声もあったとか。

はい、実際にそう言われたこともあります。もちろん、僕に子どもは産めませんが…(笑)でも、当事者が当事者の悩みを言っていても「まぁ、そうだよね」で終わってしまうこともあると思うんですよね。僕は、社会を俯瞰で見て課題を解決していきたいので。当事者経験に絡めとられずに、客観的に課題を捉える。それが逆に強みになっているかなと思っています。とはいっても、ユーザーに寄り添った感覚値での判断やコミュニケーションは欠かせないので、そこを今回志賀さんに補ってもらっていました。非当事者の僕だからこそできること、ユーザー目線で商品を見ることが出来る志賀さんができること。それがかけ合わさったからこそ、生まれたものがあると思っています。

ーー最後に、今後の展開やビジョンを教えてください。

今後も「親御さんの可処分時間・精神量」をつくるための商品をトータルで提供するプラットフォームになっていきたいと思っています。また、僕自身が政治にバックグラウンドを持つ人間なので、行政との連携も模索していきたいですね。会社としては利益を上げ、事業性を追求しながら社会性を実現していきたい。いわゆる「社会起業家」を目指しています。社会には育児の課題が山積しているのに、育児系のビジネスは儲からないと言われていて、まだまだそういった企業が増えていないのが現状です。理念を実現しつつ、企業としても規模が追求できるような1つの両立モデルとして、その形を提示したいなと考えています。


支援先企業の商品やサービスが「社会を良くする」ことがやりがい。MaVie代表の志賀

■Kazamidori.Incプロデュース 離乳食ブランド『土と根』
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