リゾートホテルからウェルネスリゾートへ。「ブランド戦略」×「顧客体験」でウェルネスブランディングを実現

施設情報
THE SCENE amami&wellness resort
当初の課題
ブランドイメージと現実の乖離が起きていた
取り組みと成果
- ウェルネスブランディングの戦略設計
課題分析から入り、単なるリゾートホテルではないウェルネス領域での価値を明確にして、ウェルネスブランディングを戦略設計 - ウェルネスリゾートとしてのブランド確立
戦略をもとにウェルネスリゾートとしてブランド確立するために、ターゲット顧客を再定義。そして顧客体験もブランドコンセプトをもとに改善し、ブランドアイデンティティの体現を実施。 - 集客につながるブランドコミュニケーション
広告は使わずに、ブランドコンセプトを丁寧にステークホルダーへ伝えていくことで、ブランド認知が地道に広がり過去最高の集客売上、そして露出は8倍へと成果に繋がった。
目次
ウェルネスブランディングに舵を切るための、課題整理
コロナ禍で旅行業界が打撃を受ける中、3期連続で過去最高売上を実現したウェルネスリゾート「THE SCENE amami&wellness resort」。
奄美大島の最南端に位置し、目の前に広がるのは、海亀が生息する一面の青い海。豊かな緑に囲まれたその場所は、まさに非日常を味わえる環境。
ここには「どうしてもここを訪れてみたかった」というゲストや「またここに訪れたかった」というリピーターが絶えません。奄美大島の最南端の地にあるウェルネスリゾートは、なぜコロナ禍での売上拡大が実現できたのでしょうか。
コロナ禍で最初に取り組んだことの1つとして、ウェルネスブランディングがありました。
MaVieでは、言葉やクリエイティブで「ウェルネスリゾート」というウェルネスブランドのイメージを伝えるということではなく、「ブランドをどう体現していくか」、「顧客体験をどう提供していくのか」を徹底的に考え、点ではなく線にしたブランド構築ステップをご提案し伴走させていただいています。
ーMaVieでは、ウェルネスブランディングをどのように設計していったのですか?
コロナ禍で初めて現地を訪れた私は、ホテル前に広がる光景の美しさに息をのみました。
目の前には、海亀が顔を出す青く透き通る海。見渡す限りの大自然に包まれて、聞こえるのは波と風の音、鳥のさえずりだけ。これまでも様々な場所へ旅をしてきましたが、日本とは思えない非日常の空間で、本来の自分に戻っていけるような感覚がありました。
今ではホテルのコンセプトとして浸透してきた“ウェルネスリゾート”という言葉がぴったりな場所だというのが第一印象。しかし、実際に訪問してみるまで、ここは大人のための場所だというイメージはなかったのです。大人の女性がひとりで訪れて自然の中でゆっくりと自分と向き合える場所だというイメージを、私は持てませんでした。
当時のSNSやホームページでは、いわゆる「インスタ映え」を意識した表現をしており、大人のためのウェルネスリゾートと言う印象はありませんでした。また、戦略的なブランドコミュニケーションをとっていなかったため、メディアで紹介される情報も限られていました。
まずは、この大きな乖離を埋めていくことからスタートしようと顧客層が気になり、現場のスタッフ数名に尋ねてみると「普段は都会で忙しく働いていて、オフには自然の中で一人の時間を持ちたいという女性……まさに志賀さんのような人が来ます!」という返答が。
私のような女性がメインの顧客層なのに、私にはこの場所が私のための場所だということは伝わっていなかった。それは本当の魅力が伝わっていない。非常にもったいないことです。そして同時に、ブランドコミュニケーションのあり方を見直せば、ビジネスとしてさらなる発展が見込めるとも感じました。
30〜40代の女性がひとり旅で訪れることも多い、この場所をウェルネスリゾートとして打ち出していこう。方向性が見えたことで、私はまず、このホテルが目指す「ウェルネスリゾート」の定義・価値を明確にするとともに、現状の分析をしてイメージの乖離を埋めていくことにしたのです。
PRや広告展開は、ブランドコンセプトが正しく表現できる状態で行うべきもの。目先の売上のために、やみくもにブランディングとは離れた露出をしても、意味がありません。そこで対外的なブランドの表現をすべて見直し、基盤が整ってから戦略的なPRコミュニケーションを設計していくステップを進めていきました。
単なるリゾートホテルではない
ーウェルネスブランディングへ舵を切るために、何から着手をしていったのでしょうか?
まず「THE SCENE」というウェルネスリゾートの価値を定義することから、ブランド再構築はスタートしました。まず挙げられるのが、海と緑に囲まれた絶好のロケーション。世界自然遺産である奄美大島の中でも最南端にある国立公園内に位置しており、360°どこを見ても人工物がない環境です。ホテル前の加計呂麻島を見ながら行うサンライズ・サンセットヨガは、ここでしか味わえない体験・空間に、ここならではの価値を感じました。
またコロナ前から導入しているウェルネスプログラムをはじめ、リラクゼーション、海でのアクティビティなど、全てがホテルの中で完結できるのも大きな特徴でした。ここでは外部のツアーを手配する必要はなく、オールインクルーシブであらゆるウェルネスな体験ができます。これは女性がひとり旅をするうえでも、子連れファミリーにとっても心強いと感じるポイントの一つです。
そして私が良い意味で驚かされたのが、食事のクオリティの高さです。地のものをふんだんに使い、島の恵みが感じられる料理の数々は、旬の素材を活かした洗練の味。聞いてみると、東京で腕を振るう有名シェフや料理長の監修によるものでした。ここが奄美大島の最南端の地であることを忘れるほどの本格的な味わいに驚いた私は、スタッフにその感動を伝えました。
しかし当時のホームページには、料理に関してはあまり表立って書いていなかったのです。写真は古く、かつページをよく見ないと辿りつけないような場所に掲載されていました。そのほかにもたくさん差別化できる要素が詰まっていました。そして「ネイチャークレンズ」という独自の素晴らしいストーリーコンセプトも持っていたのです。
「こんなに素晴らしいものなのに、なぜもっと前面にアピールしないのだろう?」と不思議に思いましたが、現場では「差別化できる大きな価値」だとは気づいていなかったといいます。
このように第三者が入ることで、現地のスタッフには見えない価値を明確化できます。そしてペルソナとしての消費者視点も活かしながら、「これは素晴らしい、価値のあることですね」「こういうサービスは他では見たことありません」と、このホテルならではの価値を1つずつ引き出していきました。
ウェルネスリゾートとしてのターゲット顧客を再定義
ーどのようにターゲット顧客を定義したのですか?
2015年のオープン当初、ホテル前のウッドデッキでヨガを終えた女性のお客様が、涙を流していたことがあったそうです。心配になった支配人の小林氏は声をかけてみることに。すると、「こんな大自然に囲まれてヨガをして、心が洗われ、自然と涙があふれてきました」という言葉が返ってきたといいます。その言葉に心を打たれた小林氏は、それまで漠然と掲げていた「リゾートホテル」というコンセプトを一新しようと決意。大自然の中に身を置き、非日常的な場所でリラックスして過ごすことで、心や体、脳を浄化する「ネイチャークレンズ」というコンセプトに注目するようになったのです。
「ネイチャークレンズ」は、大自然の中にある、この場所だからこそ打ち出せるコンセプト。これも唯一無二の価値であることを確認したことで、思い切って「ウェルネスリゾート」に舵を切るという方針が明確になりました。
そして整理した価値を踏まえたうえで、これまでの顧客について分析してみると、「30〜40代女性」や「経営者・役員層」といった、旅慣れた大人世代がメインのターゲットになると考えられました。そしてこれらの層への認知が進めば、家族で訪れたいというニーズも増えると予想されることから、「上質な旅を求めるファミリー」もターゲットになり得るという方向性も見えてきたのです。ターゲットが明確になったことで、次のステップとしてターゲット毎の戦略設計、コミュニケーション開発、ウェルネスの新商品や企画開発へと進んできました。
ブランドを顧客体験に落とし込む商品開発
ー顧客体験をどのように創造していったのですか?
今では「ウェルネスツーリズム」「リトリート」というキーワードをよく耳にしますが、当時はほとんどありませんでした。そこでまず取り組んだのは、ブランドを顧客体験に落とし込む商品開発です。今回のケースでは、ウェルネスリゾートに舵を切る決断をしたことで、時流にあった”健康意識の高まりのニーズに応えること”が可能となりました。
支配人の小林氏は、元トップ営業マンだったこともあり、ビジネス戦略を描くことに関してはプロ中のプロ。一方でこんな声がありました。
「ペルソナとなる女性のお客様に何を提供すれば満足していただけるのか、具体的にどういうプログラムが良いのか、好まれるのかといったことは僕は全然わからなくて……」そこで私自身のトレンドを意識した消費者視点も交えながら、ウェルネスツーリズムとなる企画開発を行っていきました。
広告展開はせずに、ウェルネスツーリズムの露出が8倍に
ー広告展開はせずに、どのようにPRをしていったのですか?
商品開発が完了し、まずは大事なブランドコミュニケーションの1つとして、対外的に出している写真素材1つから全て見直しました。現在のホームページやInstagramでは、よりウェルネスリゾートを感じていただけるブランドの表現をご覧いただけると思います。
ホームページやSNSなど必ず目にする場所をリブランディングをテコ入れしてから、戦略的なPRを開始していきました。
そしてターゲット層に合わせた媒体へ「ネイチャークレンズ」や「ウェルネスリゾート」という概念そのものから丁寧に伝え、共感を得ながら企画を設計していきました。ブランドイメージに沿った質の高い情報を発信できたことで、ブランディング・PRを戦略的に開始して1年が経つ頃には、前年比で8倍の露出になりました。
膨大な費用のかかる広告展開は行わなかったにもかかわらず、この結果となったことは、焦らず地道に「THE SCENE」の価値を戦略的にブランドコミュニケーションを継続してきたことが大きな要因となりました。
ビジュアルイメージではなく、顧客体験から設計
ーイメージビジュアルから入らないのはなぜですか?
一般的にウェルネスリゾートというと、イメージ先行でビジュアル重視の施策となりがち。しかし、イメージ先行では顧客体験との乖離が生まれる可能性もあり、本質的なブランディング、しいては売上につながりません。
そのためMaVieでは、現状分析と戦略構築から行うことを重要視しています。メディア露出を図るためのPR施策は最終工程。PRの材料を揃えるために、ブランド構築、商品開発などのプランニングをすることが大切です。
2〜3カ月後の集客を上げたいのであれば、広告展開が有効なこともあるでしょう。ただ、それは一時的な売り上げ獲得のための効果はあったとしても、中長期的な成果が約束されるものではありません。
1年後、5年後といった中長期的な視点でとらえた場合、独自のブランド構築に注力し、適切な形でのブランディング、そして戦略的なコミュニケーションを図るのはとても効果的だといえます。
この「THE SCENE」では戦略的なリブランディングにより新規顧客増加を実現するとともに、顧客満足度が向上して多数のリピーターを獲得。コロナ禍においても3期連続で過去最高売上を記録しました。現在は「ここでの体験が忘れられなくてまた来ました」というお客様の言葉がスタッフのモチベーションを高め、サービスの質の向上にもつながるという良い循環が生まれています。
ウェルネスブランドの鍵は、「戦略」×「トレンド消費者視点」
今回の事例では、このように単なるブランド・PRではなく、戦略的な視点から入り、ペルソナとしてのトレンドを踏まえた消費者視点も活かしながら伴走しました。
女性が何を見て情報収集しているのかがわからない状態からのスタートだったが、志賀さんのおかげでブランドコンセプトが統一できました。また、そのイメージ向上につながる戦略立案、商品企画、メディア露出がすべて線になり実現したことで、的確に集客につながるお客様へのリーチができたことを実感しています。
コロナ前から「ウェルネス」に着目し実践してきたひとりだからこそ、自分が心から良いと思えるウェルネスな体験に出合いたいですし、そのような体験を広めていきたいという思いで取り組んでいます。
コロナ禍を経たことで人々の健康志向はより高まり、ウェルネスという言葉が先行している今。単なる「観光」や「癒し」ではなく、そのブランドが提供する「ウェルネス体験」をどう顧客体験へ落としていくのか、さらに独自の付加価値をどう生み出していくのか。そして、それらを的確に認知拡大へ繋げていくことが差別化の鍵となるでしょう。