【レポート】小手先のPRではなく、ものづくりのこだわりやブランドストーリーを自分の言葉で語る
新型コロナウイルスの拡大により、社会環境は大きく変化しつつあります。様々なビジネスシーンでオンラインの活用に注目が集まる今、従来の営業や集客方法、そして広報活動などで新しいアプローチが求められているのではないでしょうか。
そこで今回は、株式会社SEAMの石根友理恵氏をゲストに迎え「広報活動ゼロ!オンラインで実現するブランドコミュニケーションとは -和もん-」を6月10日に開催しました。
2020年4月に漬物のDtoC(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランド「和もん」を立ち上げ、クラウドファンディングでは500%を達成。すでに10媒体を超えるメディアに掲載された実績をもつ同社から、オンラインでのブランド訴求やメッセージの伝え方についてお伺いしました。
目次
原体験から生まれたピクルスの定額制(サブスクリプション)サービス

ーー石根さん
私たちは酸味と旨味が効いた和風ピクルスのサブスクリプションサービス「和もん」を展開しています。季節の野菜やフルーツを使った12種類の商品を用意しており、種類の多さと素材の珍しさが特徴です。有機農家直産の野菜のほか、老舗のだし屋さんやお酢屋さんの調味料を使うなど、素材にはとことんこだわっています。だしをしっかりと入れることで、和風ピクルスとして日本人の舌にあう味に仕上げました。
このブランドは私の2つの原体験から誕生しました。1つ目は、父の死をきっかけに食が生命に関わる根幹の部分であると認識したことです。病気にかかる数年前から食が細くなって栄養が不足してしまい、精神的にも肉体的にも弱ってしまう悪循環に陥っていたように感じています。
2つ目は自分自身の妊娠です。当時はフリーランスのPRとして仕事をしていたのですが「出産後に仕事をセーブしてしまったらどうしよう」という不安も抱えていて。自分が取り組んでいる目の前の事業と組織をしっかりと将来に残したかったので、自分への約束として、妊娠8ヶ月目には事業を法人化しました。
ーー志賀
私も子どもがいるので、そのお気持ちすごくわかります。子育てをしながらも仕事にしっかりと向き合うために、自分自身に何かを課すというイメージですよね。
ーー石根さん
そうなんです。法人化したことで仕事はとても忙しくなり、日々の不摂生と栄養不足が重なって子どもがお腹の中で育たなくなる「胎児食育不全」になってしまって。最終的に子どもは2000gという小ささで生まれてきました。本当に後悔して、すごく反省しました。忙しいとつい忘れてしまいがちですが、人間の生活の基本として、食べることと寝ることは本当に重要なのですよね。ただ、食というのは栄養をとるだけではなく、テーブルを囲みながらコミュニケーションを楽しんだり、食べたい料理を選んだりする楽しさもあります。こういった経験から、食を通じて人生が豊かになるブランドをつくりたいと思うようになりました。

ーー志賀
ブランドを立ち上げようと考えた時に、商品はすでにピクルスにしようと決めていたのですか?
ーー石根さん
そこまでは具体的にイメージしていませんでしたし、今後も他の商品展開も視野に入れています。ではなぜピクルスを選んだのかといいますと、私自身漬物がとても好きで。漬物は日本最古の健康食品と言えるほど日本の食文化に深く根付いていますし、栄養価も高い。その一方で若い方はあまり進んで購入しておらず「塩分が多くて健康に悪いのでは?」いうイメージも強くあります。そこで漬物をリブランディングしてアレンジしてみたら可能性があるのではないかと考えました。そして私が一番食べたいと思う漬物を目指して開発を進めていったのです。
DtoC領域で成功するために必要な3つのポイント

ーー石根さん
2020年4月15日から事前予約販売としてクラウドファンディングを開始し、1ヶ月間で10媒体ほどのメディアに掲載していただきました。最終的には325人の方々からご支援をいただき、その過半数がmakuakeやメディアをみて興味を持っていただいた方です。当時はリリースを1本出していただけでメディアに対してアプローチは全くしていませんでしたが、和もんを取り上げていただくために、私なりの戦略を打ち出していました。
店舗を持たずにネットで直接消費者に売るDtoC(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)の領域の基本は、3つの要素だと思っています。”ブランドストーリー”と “ものづくりへのこだわり”、そして”消費者のニーズ”です。これらが備わっていればブランドが確立されていきますし、宣伝や広報活動をごりごりにしなくても、メディアや世の中が注目してくれるはずだと睨んでいました。
そのためクラウドファンディングを始める前のサービス設計の時点から「なぜ和もんを立ち上げたのか」というストーリーと、素材へのこだわりを表現できるように意識しました。そこに納得感があればあるほど、共感してくださる方が多いのではないかと考えていて。ストーリーとものづくりへのこだわりが強ければ強いほど、オリジナリティが生まれていくのではないでしょうか。
ーー志賀
石根さんはもともとPRのご経験があったからこそ、ストーリやこだわりを明確に言語化できたのだと思います。ですがサービスの強みを言語化するのは苦戦する場面もありますよね。そのあたりはどのように工夫されたのでしょうか?
ーー石根さん
まずはクラウドファンディングに掲載するページに、どのような情報を掲載するかを考えました。商品の特徴や起業のきっかけをとにかく書き出しましたね。スプレッドシートを使って箇条書きをしながら、頭の整理を進めました。2万字を超えるほどの文字数になってしまったのですが、必要な部分だけを残してどんどんシャープにコンパクトにしていきました。
他にも工夫したのは、和もんの商品を利用する場面を想定し、ページ内に盛り込んだこと。どのような切り口でもメディアで紹介しやすいような構成を意識しました。ページ作りには1週間ほどかかり、最も時間をかけたのは「記者だったらどのような情報がほしいか」という部分の作り込みだったように思います。誰がどのように読んだら取材をしたいと思うページになるかを考え、取り上げてほしいメディアの数も設定していきましたね。

ーー志賀
石根さんが狙った通りに相手に刺さった感触があったポイントはございましたか?
ーー石根さん
商品の利用シーンの想定は狙い通りのメディア露出につながりました。和もんの和風ピクルスのエッセンス(ピクルス液)は様々な料理のアレンジにお使いいただけるので、料理好きの方がよく見るメディアに取り上げていただきたくて、アレンジレシピをクラウドファンディングのページに盛り込んだのです。すると食品系のメディアから連絡をいただき、料理のアレンジとして紹介させてくださいという取材依頼につなげることができました。
小手先のPRではなく、自分で語るブランドのストーリー発信を意識する

ーー石根さん
同じ食分野でいうと、チョコレートブランドのminimal(ミニマル)をブランドとして尊敬し、分析しています。CEOの山下さんの言葉である「ものづくりを磨き上げれば、それがPRになる」という言葉を指針にしていて。minimalは世界中のカカオ農家に足を運んで独自の仕入れをし、ひとつの商品を作り上げるのに何百回もの試作を重ねています。そういったブランドのストーリーを聞くと、自然と商品を買いたくなりますよね。ただメディアに取り上げてもらうための小手先のPR術では、到底太刀打ちできないこだわりが根底にあるように思います。
私も、こだわり続けるのは大前提で、ブランドの成長過程を自分の言葉でアウトプットすることを今後継続的に行いたいと思っています。
ーー志賀
具体的にはどのような発信をされているのですか?
ーー石根さん
和もんの商品やものづくりに対してのこだわりを投稿プラットフォームのnoteで発信しています。紆余曲折も含めて「ブランドづくりにおける過程で話せることは全部話そう!」というスタンスです。また周りの人やメディアの方にも積極的に話すようにしていますね。
スタートアップの広報活動に大事な3つのポイント

ーー石根さん
私のキャリアとして、これまで複数のスタートアップの広報を担当してきました。振り返ってみると、スタートアップの広報には3つのポイントが必要だと感じています。まずは「自社の企業やサービスについては、想定しているよりも1万分の1も知られていない」という前提で動くこと。自分たちについて全く知らないというスタンスでいると、伝える情報や気の持ちようも変わってきます。2点目は「広報は営業と一緒」だということ。まだ知られていないものをいかにニーズがあるように売り込めるかが重要です。
ーー志賀
とくに1点目は、第三者目線で客観的にメディアへ必要な情報を伝達することが大事ですよね。よく「メディアの人たちと人脈があれば掲載につながる」と思われてる方も少なくないですが、人脈があるからといって媒体に必ずしも掲載いただけるわけではありません。企画提案営業と一緒だと思いますね。それぞれのメディアを徹底的にリサーチして、適した情報を提供するのが重要です。
ーー石根さん
3点目はスタートアップの横のつながりを大事にすること。困った時に助け合える関係は何より重要です。他社の情報も足をつかって手に入れるようにしていました。
私たちはこれから本格的に商品のリリースが始まります。常に商品企画を続けてものづくりの過程を磨きあげていくのはもちろん、私自身が和もんのサービスをたくさん語り、その量をいかに増やせるかもポイントになるように感じています。在庫が確定次第、マーケティングやメディアアプローチにも注力する予定です。
商品のリリース前に色々な方と話すなかで頭の中が整理され、今後ぶらしたくない軸もはっきりしました。夫やPR仲間、そして同じような立ち上げ期の仲間との「壁打ち」のおかげです。今後も小手先のメディアアプローチではなく、しっかりとブランドの根幹を伝えていきたいと思います。
ーー志賀
サービスローンチ時のブランディングはまさにキーポイントですよね。その後の方向性がぶれるとブランドとしても質が落ちますし、経営者として「自分を知る、自分と徹底的に向き合う」というのも大事だと思います。そして商品にとっても自分にとっても、いつでも立ち返る場所があるというのが「初期のブランド設計」をするメリットだと感じてます。今日は貴重なお話をありがとうございました!