【レポート】女性の再就職。柔軟で多様な働き方が、個人の幸福度を上げる鍵になる。
新型コロナウイルス感染症の拡大をうけ、テレワークや在宅勤務へのシフトが始まり、ワークスタイルはここ数ヶ月間で大きく変わりつつあります。このような状況下においては、「今後の働き方」について考え出している方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、三越伊勢丹グループである「ワンデイワーク」を運営する代表の飯島芳之様にお越しいただき、フルタイム・週5勤務ではない新しい雇用のあり方についてのイベント「withコロナ時代『個の幸福度の実現に向けた新しい雇用のあり方』」を7月15日にオンラインで開催しました。
ワンデイワークは2019年10月に設立され、「私らしい、新しいはたらきかたを実現する」をミッションに、デイワークのマッチングアプリを展開されています。家族や自分のスケジュールに合わせて働ける同社のサービスでは、今まで復職を諦めていた方でも、まずは1日・短時間から仕事を始めることができます。そのため、復職までのステップとして利用される方もいらっしゃるそうです。
これまで16社に導入され、1500マッチングもの実績をもつ同社の飯島様に、これからの新しい働き方と個人の幸福度の関係についてお伺いしました。
働きたくても働けない人に、新たな一歩を踏み出すサポートを

ワンデイワークは単日、短時間に特化したアルバイトをアプリで紹介し、雇用主とワーカーをマッチングさせる事業を展開しています。雇用主はアプリ上に求人情報を掲載し、採用を進めます。ワーカーはアプリにプロフィールを入力後、働きたい案件に応募して、選考に通過すると仕事がスタートできる仕組みです。
これまで双方にとって煩わしかった書類などの事務手続きを簡略化することで、スムーズなマッチングを可能にしました。給与の支払いは弊社が代行したり、1日の給与の上限を源泉徴収が発生しない9299円にするなど、細かな工夫も行っています。
2019年10月から事業を開始し、2020年7月時点でアプリのダウンロード数は1万5000を達成しました。導入企業は16社、マッチング数は1500を超えています。求人広告などを使ったPRは一切しておらず、ユーザーの方の口コミなどで自然にダウンロード数が伸びているのは、とても嬉しいですね。掲載している仕事は百貨店の販売や受付での対応、ご案内業務やマーケットリサーチなど多岐にわたります。
最近ではママユーザーを対象にした、SNSマーケティングのリサーチ業務などもあります。新型コロナウイルス感染症の影響もあるため、現在は在宅と出勤をミックスする働き方を導入しているケースもありますね。
同業他社と異なるのは、就業経験やビジネススキルをすでにお持ちの方に多くご登録いただいていること。ユーザーの8割は女性で、20~40代までの方々に多くご利用いただいています。「私らしい、新しいはたらきかた」の創造をミッションに掲げているため、本格的に働く前のリハビリや第一歩としてもご活用いただいています。
ワンデイワークには2つの活用方法があると考えています。メインは、単日・短時間のアルバイトという柔軟な雇用です。雇用側は繁閑の差に応じて人手を強化したり、単発のイベントに対応したり、正社員などの従業員のシフトを組む際に発生した欠員を埋めたりすることができます。これまでは1日単位、数時間単位での雇用が難しかったため、ワンデイワークではフレキシブルな雇用を可能にしているのが強みです。
もう1点は長期雇用を前提とした就業体験です。「実際に働き始めたら、あまり適性がないと感じた」「想像していた人材ではなかった」など、雇用主とワーカーのミスマッチが発生するケースは残念ながら多々生じています。そこでまず一度、単日や数時間で働ける環境を整えることで、相互の意思確認ができる環境を作り出しているのです。
長期雇用につながった際は、ワンデイワークのプラットフォーム外で契約していただく形を導入しています。企業の皆さんからは、ワンデイワークを通じて仕事を細分化し、依頼することで、自社内の業務内容の整理にもつながったという声も頂戴しています。
起業の原点は、百貨店の現場で感じた課題

私は2002年に株式会社伊勢丹(現・三越伊勢丹)に入社して以来、紳士服の現場で長い間バイヤーを務めていました。そして社内起業制度を活用してワンデイワークを立ち上げたのですが、起業の原点となったのは、自身の現場での経験でした。
百貨店の現場では、ライフイベントを機に退職してしまう女性が多くいらっしゃいました。そのほとんどが結婚や子育て、介護やご自身の疾病などを理由に、「働きたいけれど一旦離職します」と決めて、退職されていて。企業側としても様々な制度を整えてはいたのですが、なかなか復職出来ないという現状でした。「本当は働きたくても働けない」という多くの女性の姿を、長い間目の当たりにしてきたのです。
ライフイベントを迎えた女性にとって、百貨店の勤務体系にはかなり課題が多いのも実情でした。土日祝日は最も混雑するので、出勤するのが当たり前。家に帰るのが遅いのも当たり前。社員として復職する場合は、週5日勤務が当たり前。このように課題が山積みの状態では、万が一仕事を続けてもらったとしても、家族との生活時間にずれが生じてしまったり、自身の体や精神的に与える負担も大きくなったりしてしまいます。
そのため私も「離職してしまうのは仕方がない」と割り切っていた部分もありました。しかし2018年に同じ会社に勤務していた妻が出産したことで、この問題が自分ごとになったのです。
妻を含めて働きたくても働けない女性が多く抱えている課題を解決するためには、もっと柔軟で新しい働き方が糸口になるのではないか。そう考えた私は社内起業制度を活用してワンデイワークを立ち上げ、一度仕事から離れた女性に、復職までのステップとして活用いただけるようなサービスの立案に携わりました。
徹底したヒアリングから生まれたサービス

ワンデイワークのサービスを創り上げる上で特に大切にしたのは、徹底したヒアリングでした。実際にユーザー候補となる百貨店のOBOGに多数のインタビューを実施。そのなかで、働く上での様々な課題がみえてきました。
例えば復職にあたっては、女性の方ご自身が仕事に慣れるというよりも、家族からの理解を得ることの方が重要だという意見が聞こえてきて。「せっかく働くのであれば、職場選びに失敗したくない」という声もありましたね。
そこでワンデイワークでは、2つのサービス設計にこだわりました。1点目は、自分の好きな時間に働けること。週5日勤務などの固定シフトに縛られず、お子さんを幼稚園に出した後の時間や、お子さんが習い事をしている時間、旦那さんが面倒をみてくれる土曜日など、細切れの時間でも取り組める仕事を多く掲載しています。
2点目は、直前に仕事を決めてもすぐに働き出せること。通常仕事を始める際は履歴書の執筆や案件への応募、面接など、就業までに最低でも1~2ヶ月かかります。しかしワンデイワークであれば、実際に仕事が始まる数日前に応募して、すぐに働くことができます。ご家族の予定などと調整しながら、自身の働き方を自由に選んでいただけたらとても嬉しいですね。
新しい働き方が、個人の幸福度を向上させる

新型コロナウイルス感染症による自粛期間においては、多くの方が在宅勤務を経験されていることと思います。今回の出来事を経て、個人だけでなく、日本の社会も大きな変化を迎えているのではないでしょうか。1日の時間の使い方が変わったり、仕事やプライベートにおける優先順位が変わったりした方もいらっしゃるかもしれません。
私自身は毎日朝夕2回、子どもと散歩することが日課になりました。7月からはオフィスへの出勤を部分的に再開していますが、自分の人生において何が大切かを見つめ直し、今では子どもと過ごす時間を増やすようにしています。
これまで縛られていた仕事の時間から解放されると、様々な選択肢がみえてきます。家族と過ごす時間を増やしたい、新しい価値観を学ぶための勉強を始めたいなど、従来の働き方では考えられなかったアイディアも出てくるかもしれません。
これまでは仕事の時間をコントロールしたり、個人が働く時間を決めたりすることは難しかったように思いますが、今後はより自由度の高い働き方を選択できるような社会に変わっていく予感がしています。
もちろん個々人が仕事の時間をコントロールすることで、雇用主となる企業側にもメリットがあります。個々人のパフォーマンスの最大化は、企業のパフォーマンスの最大化にもつながるはずです。ワンデイワークとしても、単なる単日、短時間の雇用をマッチングさせるアプリを提供するだけでなく、今後は個の幸福度をあげる時間の使い方を実現する雇用の仕組みとして、柔軟な働き方を広めていきたいですね。